埼玉新聞の「高齢社会 生き生き」欄に紹介記事が掲載されました

2000年11月3日

介護は真実の宝庫 老いの切れ味~磨かれる大衆演芸 人間を見つめるチャンス~

浮かばれない

「介護講談」と銘打ち人気上昇中なのが、女性講談師の田辺鶴英さん(44)だ。「重体のふりをする老人諸君、ほんとにそれでいいのか」と、払った保険料分以上の元を取るうとする利用者への皮肉。トイレで用を足す際に女性ヘルパーに男性器を持たせて楽しむ男性も登場し、福祉関係者だけでなく寄席の客にも「リアル」と好評だ。
田辺さんは、実母と義母を長年介護しながら「不幸だ、不幸だ」と感じていた。だが10年前に講談界に入門、持ちネタにこの素材を取り入れようとして「暗い」と断念を忠告されたとき、「それでは母が浮かばれない」と、思いを実現する決意を固めた。「暗い明るいで片付けるのは、ばかげた発想だと思ったんです」

介護の実際を体験する(グループホーム和笑庵にて)
介護の実際を体験する(グループホーム和笑庵にて)

身近に現場が

創作した物語の合間に実体験を盛り込むせいか、釈台から身を乗り出し張り扇をたたく姿も迫真のパフォーマンスとなる。
田辺さんに「なぜ説得力があるのか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。「人間を見てるからだよ、きっと。介護は人間を見つめる一番のチャンスかもしれないよ」
痴ほうの親を殺してしまう娘にしても、性欲を表現せざるを得ない老人にしても、ただ「残酷」「いやらしい」と切って捨てることはできないだろう。
介護をめぐって現れる人間の本性を梅沢さんと田辺さんは芸に昇華させた。その一方、身近に介護の現場を持つ人が増え、演じ手への共感がより強まっているのではないだろうか。

高齢化は「老い」を「青春」に勝るとも劣らない、人間の真実の宝庫に変えたと言えるかもしれない。

2000年11月3日(金)の埼玉新聞より抜粋